イーノとは何者か? Brian Eno『Ambient 1 Music for Airports』

Brian Eno(ブライアン・イーノ)
彼は一体、何者であろうか?
今も世界中で多くの者達が「プロ」の音楽家を目指してしのぎを削り、「プロ」になった多くの者達もまた、その後のレースから抜け出すこともままならず、そこにプライドを見出してさえもいる。
しかし、イーノは言うのだ、「私は音楽家ではない」と。

その経歴の表立った部分は、伝説的なバンドRoxy Music(ロキシー・ミュージック)のシンセサイザー/エフェクト音担当から始まり、その奇抜なファッションとメイクで、フロントマンであるブライアン・フェリーよりも目立ったほどであった(ビジュアル系の先駆者とも言えそうである)。

Roxy Music脱退後、ストレンジな音響の名アルバムを数作リリースし、1975年、決定的な傑作『Another Green World』をリリースする。
そのアルバムは、ハイファイ傾向の音質の素晴らしさは持ち併せていないが、他のどこにもない音響で溢れ、どこにも類型がない楽曲が並ぶ。
特筆すべきは、革新的であるにも関わらず、荒唐無稽な前衛作品的印象はなく、親しみ易さすら備えている点である。
おそらく、この、唯一無比の観点、先鋭的なセンス、そして絶妙なバランス感覚に、のちにイーノとコラボレーションし終生交流があったデヴィッド・ボウイなども惹かれたのだ。

そして1978年、歴史的名作『Ambient 1 Music for Airports』がリリースされた。
これは「Ambient(アンビエント)」という名称が初めて音楽に使用された作品である。
より正確に言えば、Ambient(包囲する・包み込む・周囲を取り巻く等の意)という概念を音楽にコンセプチュアルかつ感覚的に転換・展開した初のアルバムである。
現在、音楽ジャンルに於いて一般名詞とすら化した「アンビエント」という呼称や「環境音楽」なるカテゴライズは、全て、ブライアン・イーノの、この作品から始まったのだ。
さらに辿ると、そのルーツは、エリック・サティの「家具の音楽」であるとも言える。
それは、一聴ではシンプルすぎる音楽、しかし、その構成・サウンドは、絶妙に構築・トリートメントされ、演奏もロバート・ワイアットなど良質なミュージシャンによるもので、実際にNYの空港などで流れている。

『Music for Airports 1/1(one over one)』

“気にならない音楽、聞き流せる音楽、しかし、もし注意深く聴くのなら、そこに興味深さがきちんとある音楽”というのが、ブライアン・イーノのアンビエント・ミュージックの本質で(まさにエリック・サティの「家具の音楽」の発展型でもある)、単なるBGMとは一線を画する“音楽”だ。
それらは、決して最先端とは言えないシンセサイザー(古くはEMSやmini moog、比較的近年ではYAMAHA DX7など)を駆使して、イーノ一流のトリートメントを施され、興味深く奥行きあるサウンドとなっている。
音質がハイファイなのではない、音色と響きの魅力がディープなのだ。
最先端の音では決して無い、あらかじめどこかしらクラシカルな佇まいの、しかし独創的なその音響は、古びることはない。
そしてそれは、どこにも類型がないシンプルで特異な個性を伴っている。

こちらは、この20年程に渡って、NHKのドキュメンタリー映像などでも多くかかっている(宇宙映像から、意外にもマラソンなどのスポーツ系ドキュメンタリーなどでも聞かれた)楽曲で、元々はNASAの映像につけられた1983年作のサウンドトラック『Apollo』からの楽曲である。

『An Ending (Ascent)』

この時期のイーノのアンビエント作によって、いわゆるアンビエント・ミュージックのフォームは決定づけられた感があるが、しかし、イーノ自身はさらに前方へと進み続けている。

70年代から活躍するイーノだが、その創造性は現在も衰えることなく最前線にあり、具体的な音楽作品以外に、一流のコンセプターとしても、世界は今なお彼の言動に注目し続けている。

ブライアン・イーノの経歴には、U2、トーキング・ヘッズ、デヴィッド・ボウイ、コールドプレイなどのプロデューサー、優れたコラボレーターとしての顔もあり、その手腕は的確かつ特異であり、それらミュージシャンの音楽性を引き上げ、表現の領域を拡張したのみならず、大ヒットにすら導いた(しかしながら、イーノ個人には、ヒットへの意思や、歌詞への思い入れなどは、全く無いようである。歌詞を重視するU2のボノなどとは正反対であるが、それがかえって良い方向へ作用しているらしい)。
近年は、テクノ・ユニットUnder Worldのメンバー、カール・ハイドとのコラボレーションで、最新型のエレクトロニック・ミュージックをもリリースしている。

その活動の佇まいを見渡す時、やはり、こう思わざるをえない。
彼は何者なのか?
「私は音楽家ではない」
(この言動は「真のプロフェッショナルは常にアマチュアだ」と語ったエリック・サティの言動とも、どこかしら符合する。)
活動開始時から数十年に渡り一貫して、こう言い切っている、ブライアン・イーノ。
しかし、どうだろう、巷は「音楽家ではない」ブライアン・イーノに及ばない意識と見識の音楽家で溢れかえっているのではないか・・・?
音楽に、根幹的な興味と理解と意欲の無い者(残念ながら音楽関係者にも少なからずいらっしゃる)などにとって、ブライアン・イーノのアンビエント・ミュージックは、単なる静かで退屈なBGM(ムザーク)にしか聞こえないかもしれない。
しかし、その作品には、捉えどころの無い不可思議な、だからこそ魅力がある「音楽と音響と静寂のリソース」が、広がっているのだ。

イーノの音楽と、その存在感は、決して難解なものではない。
類型にはまることがないという点に於いて、クリエーター/アーティストとしては正統派である。
多くのクリエーター/アーティストが、安易にジャンル的な類型で語れることのほうが、むしろ問題なのだ。
ブライアン・イーノは、不可思議で、シンプルだ。
それは、どこかしら、フラクタル図形さながらの様相で、多様性を絵に描いたような彼の全仕事も、フラクタル的に捉えるとクリアに見えてくる一貫性がある。

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umaiyan ex

音楽制作ツールと自転車、そして、あらゆる音楽、アート、ポップカルチャーを愛しています。冨田勲と乃木坂46とPerfume(観客が数十人程だった時代からライヴへ通い続けています)への愛は現在ストップ高です。日曜深夜は乃木坂ちゃんから連続アニメまで、テレ東さんの魔力で眠れません。

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