nord lead 特長と魅力(後編)


出典:http://www.nordkeyboards.jp

これまで2回に渡って、初代nord leadから始まるnord leadシリーズの、外装デザインと機能などの、主に物(製品)としての特徴を記してきたが、
最後に肝心なこと、そう、楽器としての「音色」(出音の質感)に関することを中心に言及しよう。

初代nord leadが登場した1995年は、デジタルシンセの操作と出音の複雑さが、ある種の限界域に達し、アナログシンセ旧機種のシンプルかつストーレートな魅力の再評価が進み始めていた時期でもあった。
その状況に1つの新たな回答を示すかのように、高速なDSPを駆使したデジタル演算でアナログをエミュレートするという発想で登場したのが、初代nord leadであった。

その出音は、アナログシンセの肝心なニュアンスを再現しつつ、音色のアタック部分のスピード感、エッジ部分の質感などは、アナログシンセとは趣が異なるnord lead独特なものがある。

例えば、オシレータの波形は、アナログシンセのそれよりもクリーンな印象で、雑味が無い。
フィルターの特性も、ツマミ位置に於ける曖昧さなどは無く、どこからでも切れ味鋭く反応し、レゾナンスの発信もnord leadシリーズ独特な音楽的特性である。

オーソドックスなADSR(Attack,Decay,Sustain,Release)型のエンベロープも、不感帯が無く綺麗に素早く反応し、特にアタック部分のスピード感には、旧来のアナログシンセとも他のデジタルシンセとも異なる、独特な個性がある。

UNISONモードに於いても、多くのアナログシンセで聴かれる暴れるような野太い質感ではなく、厚く綺麗に広がる印象が強い。

当時、これらをして「やはりアナログシンセとは違う」といった観点から、ネガティヴに評価する向きもあったが、それは少々評価軸が適切でないように思う。
なぜなら、初代nord leadから続いた各シリーズ、そして最新現行(2018年時点)のnord lead 4 と A1も、決してアナログシンセの代用品ではないからだ。
アナログシンセのエミュレーションを着想の起点にはしているが、あくまでDSP処理ならでは、nord leadならではの、唯一無比な質感の出音を実現しているのだ。
そうでなければ、アナログシンセも再興している現在の状況の中、すでに市場からも制作現場からも淘汰されていたことであろう。

しかし、nord leadは、独自の音色・存在感を持って、現在も求められ続けている。
nord leadシリーズは、初代から最新モデルまで、多くのミュージシャンや制作の現場で使用されており、初代nord leadですら制作の現場やライヴなどで、いまだ少なからず見かけることにも、その楽器としての魅力は証明されており、定着した存在と言えるだろう。

(上から、初代nord lead最後期型・nord lead 2・nord lead 3)

2016年に惜しまれながらその活動に終止符を打ったBOOM BOOM SATELLITES、その最終作となった『LAY YOUR HANDS ON ME』でも初代nord leadが使用されているという。

出音全体の質感は、初代nord leadから、現行のnord lead 4 と A1まで、それぞれに異なる質感を持つが、これは好みで語れる要素であるだろう。
よく言われる抽象的な「太い」とか「細い」といった表現では無責任で大雑把に過ぎる。
もっと感覚的に仔細で豊かな違いがあり、ここにその質感の違いの全てを書き尽くすことはできない(文章のみでは伝えきれない「音」の要素である)。

そして同時に、nord leadシリーズに共通する「特有な質感」もまた、どのモデルにも通底しキープされているとも言える。
これは、アナログに対してデジタル的であるというような単純なことではなく、nord leadシリーズならではの「楽器」として独特かつ魅力的な質感がある。
数値スペック的な良さ以上に、開発側が耳で聴いて調整を詰めたであろう「楽器としての音色の良さ」を感じる部分である。

明確な違いを言及しておきたいのは、nord lead 3で、これは、nord leadシリーズ中、最も異質な機種である。

機能面でも、ロータリーエンコーダーの周りにLEDを配したUI(ユーザー・インターフェース)による、各パラメーターのリアルタイムかつ視認性抜群な表示は圧巻であり、非常に使い易い。
しかし、非常に使い易いUIにも関わらず、そのUIを持たない旧来のシンプルな操作スタイルの初代nord lead・nord lead 2・nord lead 2Xの操作性が、趣こそ違えど、より簡潔で直感的なフィーリングを人間に感じさせることもまた事実だ。
nord lead 3発売以降に、あらためてnord lead 2のアップデート型であるnord lead 2Xが発表され、併売されていた時期を経て、結果的にnord lead 2Xのほうがより後年まで販売されたのは、よりシンプルなものに惹かれる人間の感覚的な指向性が、結果的に市場のニーズに影響した面も少なからずあったように思う(コストの問題もあったと言われているが、それだけではないと思う)。

そして、nord lead 3は、その出音も、ハッキリと違う。
nord leadシリーズとしてのキャラクターを有してはいるが、他のnord leadシリーズに比して、非常にシャープできらびやか、一層エッジの効いた音質である(くれぐれも、柔らかい音色が出ないというわけではまったくないので、ここは誤解されぬよう)。
その音質の重心は若干高めに感じられ、ベース・サウンドなどは初代nord leadやnord lead 2、2Xのほうが良い感じに仕上がることもある(これは、楽曲やアレンジの中で求められる質感によっても異なるので、一概に良し悪しでは言えない)。

実は意外にも、nord lead 3は、内部シグナルのサンプリング・レートが、初代nord leadやnord lead 2よりも、あえて低いレートになっている。
これは、限られたDSPパワーの使用諸条件を最適化した上での判断であり、このこともまたnord lead 3の音質特性を決定づけている要因であると思う。
内部シグナルのサンプリング・レートをあえて低くし、その分のDSPパワーを複雑なモジュレーション系統などにより多く使用することによって、全体的な音質と音色感を向上させているのが、nord lead 3なのだ。
この「全体的な向上」というのは、楽器としての音色の質感全体にも影響している要素で、厳密には、単なる「向上」とは表現できない、「好き・嫌い」といった好みの感覚が作用する要素である。
nord lead 3の導入を検討される際は(すでにその流通は中古市場のみであるが)、このことを念頭に置き、可能なら実機を試奏できれば良いと思う。

作れる音色のバリエーション的にも、シリーズ中nord lead 3が最も多彩である。
減算型の仕様を基調とするシンセサイザーの中では、モジュラー・シンセサイザー以外で、ここまで音作りの自由度が高いシンセサイザーには、あまりお目にかかれない。
総じて、nord lead 3は、モジュールが固定された減算方式メインのシンセサイザーに於ける1つの極北的な理想形であると思う。
併せて、そこに搭載されたFMシンセシスの機能も秀逸で、エレクトリックピアノ系のシミュレーション音色など、FMシンセの本丸とも言えるYAMAHA DXシリーズなどと比しても、充分に説得力があり使用に耐える、そして、nord lead 3独自の質感の音がする。
nord lead 3の素晴らしいUIで、直感的にFMシンセシスができるという、それだけでも楽しく、価値があることに思える。

nord lead 2(のちの2X含む)までは、筐体に「virtual analog」とプリントされていた部分に、nord lead 3では「performance synthesizer」とプリントされており、nord lead 3の筐体には「virtual analog」の文字はどこにも無い。
これは、nord lead 3が、バーチャルアナログ(アナログシンセのエミュレート)の領域から大きく踏み出していることを、表明していると思う。

現行最新(2018年時点)のnord lead 4とnord lead A1は、初代nord lead・nord lead 2・nord lead 2Xの正常進化系モデルである。
なおかつ、出音の多彩さは向上している(nord lead 3とはまた異なるコンセプト/ベクトルに於いて)。

nord lead A1は、その主要な構成(パラメータ)はシリーズ中最も簡略化されているが、実際の出音には、独特な説得力がある。
パラメータが簡略化されたことによるデメリットを感じることは無く、むしろ、シンプルでストレートな腕っぷしの強いサウンドを素早くほしい場合は、非常に強力な機種である。
nord lead 4のほうがより緻密な設定ができ、微妙で多彩なディテールを持つ音色を作り込めることは確かである。
対して、nord lead A1はパッとシンプルな設定で、シンセとしてわかり易い魅力的な音色を得易いのだ。
無論それは、単純な音しか出ないということはなく、必要にして充分すぎるほどの多彩な音色が作れる上に、巧妙な割り切りによって簡潔化された操作体系は使っていて独特な楽しさもあり、そこから出てくる音色も明快な魅力に溢れているのだ。
この出音の実際的な魅力には、オシレータが現行モデル中最新の設計であることも効いていると思う。
nord lead A1は、決してnord lead 4の単なる簡略化版ではない。
nord lead 4とnord lead A1には、それぞれに独特かつ個性的な魅力があるので、ぜひ店頭にて2機種それぞれの特質・音色を感じ取って頂きたい。

これら現行最新の2機種には、エフェクトが搭載されたのも有益な要素である。
ライヴなどでの使用に於いて、シンプルなセッティングでより効果的な音響を作ることができ、スタジオなどでの制作に於いても音色作成の概念が本体の段階でエフェクト込みの領域まで拡張されたのは、積極的に歓迎できる要素である。
無論、オマケ的なクオリティではなく、しっかり使えるクオリティのエフェクトを搭載している。
nord lead 4は空間系に併せてダイナミクス系のエフェクトも充実している。
nord lead A1はダイナミクス系をほぼ無くし、そして空間系のエフェクトの自由度はむしろnord lead 4以上に優れている。
どちらに有益さを見出すかは使用者各々違うと思うが、個人的にはシンセ本体に内蔵するエフェクトに関しては、空間系が充実していてくれたほうがありがたく感じる場合が多いので、もしnord lead 4のアップデートモデルが登場するとしたら、エフェクト部分をnord lead A1同様にしてほしいところだ。

そして、矛盾するようだが、nord leadシリーズは、エフェクト無しでも非常に良い音、そのまま使える音がする、これもまた事実である。
その出音の良さは、初代から一貫している。
逆に言えば、もう20年以上前からエフェクトを搭載している製品が当たり前になっていたシンセサイザー市場に於いて、かなり後発になってやっとエフェクトを搭載したnord leadシリーズは、エフェクト無しでも商品力があり、その根本的な出音に確かな魅力と説得力があるのだ。

nord lead、その初代は、彗星のごとく登場し成功をおさめた楽器であるが、実はその開発には、市場に登場する何年も前からのトライ&エラーが費やされている。
想定する性能に対して、DSPの性能が低かった時代は、DSPの性能が向上するまで、あえて数年間待ってすらいたという。
開発関与者にはミュージシャンとしての活動を併行している者も多く、音楽と製品に対する愛情と独特なセンスから生まれたその「楽器」は、歴代のシリーズ・モデル全てが、シーンに広く深く浸透し、その世界的な大成功は、必然的なものであるとすら思える。

さらに、その成功は、nordブランド(CLAVIA社)のnord lead以降に登場した、新たな製品ラインナップの成功をも誘導したと言える。
nordブランドの製品は、nord lead以降の製品もまた、nord leadで得た信頼と、独特な音質・操作性・デザインの良さを、しっかり継承し、世界中の音楽シーンで、大きな成功と高い評価を得ているのだ。

筆者自身、初代nord lead・nord lead 2・nord lead 3を実際に使用しており、その素晴らしさを実感している。
ボリューム多めの連続記事となったが、なんらかの参考になったり、有名な楽器ではあるがそのサイドストーリーがさほど多くは知られていないnord leadシリーズの読み物として、楽しんで読んで頂けたなら幸いだ。

補記:
2018年時点に於いて、初代nord lead・nord lead 2・nord lead 3は、故障した場合、その故障内容によっては、修理が若干困難な状況があると言わざるをえない。
最も顕著な例は、使用中勝手に電源ON/OFFが繰り返されてしまう症状で、この原因がメイン基盤のカスタムICなどにある場合、アセンブリ交換が主たるアプローチとなるメーカー(日本国内代理店)での修理は、事実上不可能となる(基盤がすでにメーカーにも無いため)。

この故障の主たる原因は、nord leadに限らず、90年台中盤以降のシンセは、各社コストなどのせめぎ合いの中、定格ギリギリの仕様の部品が使用されている機種が少なからずあり、そういった製品は比較的、耐久性面がシビアなことにある(機種によって特定の症状が認識されている場合も多い。メーカーの部品保有保証期間内保てばいいというような設計がなされた、かなり耐久性が低い製品も残念ながら存在する。個体差もある)。

2018年現在、電源ON/OFFが繰り返される症状にて修理に持ち込まれるnord leadは少なからずあるという。
そして、その原因がメイン基盤のカスタムICなどにある場合、徐々に症状が進行し、最終的に電源が入らなくなり、修理不可能になるという。

しかしながら、実はその原因は、メイン基盤のカスタムICではなく、メイン基盤や電源基盤の半田割れといった比較的シンプルな故障である場合もあり、その場合、しっかりした技術を持つ修理工房等では、修理再生が可能である。
しかし残念ながら、この場合も、メーカー日本国内代理店では修理が行ってもらえない場合がある。
単純に「メイン基盤の不具合」と判断され、それ以上仔細な原因の特定と修理作業が行ってもらえない場合があるのだ。
なので、この症状を本気で修理したいユーザーは、原因の探求を根気よくメーカーに交渉するか、自身で外部の修理工房に依頼する必要がある。

筆者自身、nord lead 2に於いてこの症状に直面し、メーカー修理が不可能判定となり、いくつかの修理工房に打診し、最善と思われる対策処置内容と見積もりを提示してくださった九州は福岡の工房にて修理した経験がある。
その場合、費用は、最低限の対処療法的作業で1万6千円台(見積もり=基本工賃込)。
基本的なメンテナンスメニューでは4万円台かかる(電解コンデンサーの交換などを含む、なかなか充実のメニューである)。
さらに、鍵盤を分解しての埃除去や清掃、入出力端子のあらかじめのクリーニング・接点復活など、今後起こりうる故障を少しでも未然に防ぐ処置等を、楽器全体としてフルメンテナンス的に行うと9万円台の出費となる(もっと安価な工房もあるが、その作業内容は各々打診し判断して頂きたい)。
nord leadはまだ比較的新しい製品な印象で、ヴィンテージシンセ的な認識をされてはいないが、しかしその初代〜3までは、すでに20年前後を経た電子楽器であり、その修理再生・維持には、それなりの出費が要るケースがあることもまた現実として事実である。

無論、nord leadが特にこういった故障が多いということは無く、むしろ故障が少なくストレスフリーなほうである。
筆者所有の初代nord leadなどは、新品購入時から全くの無故障で現在も快調に動作しているが、いつか修理やメンテナンスが必要になることもあるだろう。

使用に際して、過度に神経質になる必要はないが、電子部品で構成される楽器としての、このような宿命もまた、nord lead含む全てのシンセサイザーに言えることなのだ。
自動車などもそうであるが、やはり長年維持するには、日々相応の工夫(できるだけ埃の侵入を防ぐなど)や、いざという際には時間も出費も必要になる。
nord leadの楽器としての前向きな魅力のみならず、これもまた1つの現実として、正直にお伝えしたいところである。

そういった意味では、これから初めて購入使用する方には、現行新品をお薦めするのもまた偽らざる気持ちであるし、積極的にソフトシンセにて制作することもまたアリなアプローチであることは、今更言うまでもない。
2018年現在、その選択肢の多様さは、むしろ非常に幸運であると思う。

関連リンク

nord lead 4(日本語)
http://www.nordkeyboards.jp/products/nord_lead_4/
nord lead A1(日本語)
http://www.nordkeyboards.jp/products/nord_lead_a1/


 

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umaiyan ex

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