音楽の界隈ではごくたまに「本当に上手いプレイヤー」「本当に上手い歌手」などについて取り沙汰され、リスナーとして音楽を楽しんでいる一般の方の間にもそんな噂が広がることもある。
「〇〇は本当に歌が上手い」
「〇〇の生歌はひどい」などなど。
特に日本の音楽業界の歴史の大半は”アイドル”と共にあり、口パクなのか生歌なのかの論争に巻き込まれてしまう子も多い。
MyuPlaではそんな”口パク“と、また関係の深い”かぶせ“についてまとめてみた。
口パクとは?
口パクは文字通り”口をパクパクさせるだけの動作”をいう。
音楽においての口パクは”コンサートやテレビ番組(歌番組)で、歌無しの音源を流してそれに合わせて歌っているフリをする“方法を指している。
日本では80年代ごろから用いられるようになり、その理由は、
「音源を流せる環境が整ってきたから」
「楽曲自体が莫大に増えてきて、演奏家が対応しきれなくなってきた」
などといわれている。
もちろん初めから楽をするために作られた方法ではない。
今では珍しくなったが、当時は歌番組でもコンサートでも舞台のバックにはミュージシャンやオーケストラがスタンバイしていて、彼らの演奏に合わせて歌手が歌っていた。
そこには指揮者までいて、番組ごとにテンポや音色や楽器編成が変わることなどは当たり前だった。
またこの当時は日本のアイドル歌手が全盛であり、口パクを取り入れたのもアイドルが初めだろうといわれる。
それこそロックバンドやグループサウンズの人らは、テレビの収録スタジオにも機材を持ち込んで生演奏をした。
アイドルに口パクが多くなった理由は諸説あり、大きくいわれるのは、
「歌唱力よりルックス重視」
「ダンスを踊りながら歌うのは無理」
この2つであるという。
実はどちらも悪い意味ではなく、口パクは前向きな意味での手法としてとらえるのが、実は本当の音楽の楽しみ方でもある。
“かぶせ”とは?
口パクと並んでたびたびいわれるのが”かぶせ“である。
口パクが従来の手法であるのに対し、かぶせはどちらかといえば新しい技術の手法ではある。
“かぶせ”とは「かぶせる」ことで、”歌も入った音源を流し、そこへさらにかぶせて生歌をうたう“ことだ。
「そんなことしたら余計変な聴こえ方になるんじゃないの」と思う人がほとんどだろうが、まさにその通りで、音源をそのまま流しながら歌うとユニゾンやダブリングみたいになるのですごく変だ。
一般的には、音源か生歌(マイク)の方はボリュームを絞っていたり、一部だけ音源を使うなどの方法が一般的といわれる。
※ユニゾン…2人以上の人が同じメロディーを歌うこと。
※ダブリング…レコーディングなどにおいてユニゾンで歌を録音すること。またそのように聴こえさせるエフェクトのこと。
理由としては口パクと同様だが、かぶせの場合は歌の一部が“高音で出しにくい””難解なフレーズで間違えやすい”などの理由も入ってくる。
また初めから重ねて歌う大人数のグループなどは、口パクよりもかぶせを使う方が多いといわれている。
口パクの見分け方その1「音源と照らし合わせる」
本題である「見分け方」であるが、これは”音源をどれだけ聴き込んでいるか“でだいぶ変わってくる。
音源というのは基本的に綺麗に作るものなので、音程やリズムもできるだけ正確に直してあり、よほど変わった歌でない限りはとにかく綺麗であるのが特徴だ。
また口パクを見分けるには”生歌であるかを判別する”必要もあり、音程やリズムが聴き覚えのないズレ方をすればその人は生歌で、”あまりにも上手過ぎるなと思えたら口パクである可能性は往々にしてある“だろう。
ただ例外として、異常に歌が正確なため、生歌なのに口パクだと思われている歌手もたまにいる。
西野カナなどは代表的だ。
口パクの見分け方その2「動作がおかしい」
メロディーやリズムだけでなく、動作も結構わかりやすかったりする。
むしろこの方がモロにバレるケースは多い。
・マイクから口が離れているのに歌声は一定に伸びている。
・マイクを衣装や横のメンバーなどにぶつけたのにその音が入らない。
・マイクを落とした(のに、床に当たった音がしないor歌がそのまま聴こえている)
・ダンスが激し過ぎる。
などすれば、まあ歌っていないと見ていいだろう。
ちなみに4つめに挙げたダンスに関する内容だが、ダンスと口パクは本当に密接で、ダンスを優先する余りに口パクを選択しているアーティストやアイドルは数多い。
トシちゃんこと田原俊彦が口パクを絶対にやらないのは有名な話で、どんなに激しいダンスでも踊りながら歌う。
音源と同じレベルでの歌唱は難しいのだが(そのおかげで生歌なんだとわかる)、歌にもダンスにもプライドを持って挑むというスタイルを貫いている。
海外における口パク事情
日本ではこの程度の話題性だが、海外(特に欧米)では口パクに対して厳しい見方がされる。
過去にはビヨンセやブリトニースピアーズなどが大事なコンサートの場で口パク(いつもではない)を行ない、非難されることとなった。
またミュージシャンに対しても同様の価値観で、テレビ番組やコンサートで演奏が下手だと人気は伸びない傾向にある。
名前は出さないが、過去にアイドル的な売れ方をしたアーティストやバンドでも、歌や演奏が下手だったせいであっという間に二線級とされた例は多い。
逆にアメリカやヨーロッパで売れたら、それが日本人だとしても”ガチで上手いから認められた“と思っていいのだろう。
しかし例外もあり、マイケルジャクソンが大きな基準となっている。
マイケルも長らく生歌とダンスでショーを行なっていたが、キャリアの晩年はバラードだけは生歌のままにし、ダンスの激しいナンバーは口パクを用いたという。
本人の意向というよりも、年齢や体調などが理由といわれている。
ただマイケルも30代くらいまではバリバリの生ダンスと生歌唱だったので、これを理由に若いアーティストやアイドルが口パクしてもいいでしょうとはならない、のが今でも主流だそうだ。
口パクとかぶせはアイドル全盛の音楽シーンと共にあった
今回、口パクをしているであろうアーティストや、明らかにしているのがばれているアイドルなどの個人名は一切挙げていない。
巷でいわれる「口パクは逃げ」という風潮はやや短絡的でもあり、様々な理由で今も口パクは用いられているからでもあるからだ。
口パクを見分けるだけならいくつか方法があり、音源を聴き込んでいることと、ある程度は歌の癖や音程などを聴き分けられる耳が必要にはなる。
逆に生歌だとわかればそれは口パクでないことにもなるから、わかりやすいミスやムーブは、むしろそのアーティストの意向などを知る機会にもなっている。
(わざと口パクであることをアピールして遊んだり、歌詞を変えたりして生歌であることを示すアーティストも過去には多くいた。)
音楽を音楽として楽しむのに、口パクがどうとかを知り尽くす必要はあまりないのだが、知識としては面白いので参考にしてほしい。